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私は英国版と日本版『ビッグイシュー』を比較する研究を行いました。『ビッグイシュー』とは、ホームレスや生活に困難を抱える人々が路上で販売し、施しではなく、自ら雑誌を売ることで収入を得られるようにするソーシャルビジネスとして、1991年にイギリスで創刊されました。その後、この仕組みは世界各国へ広がり、日本版『ビッグイシュー』は2003年に創刊されています。研究論文自体は英語で執筆したため、多くの日本の読者には少し読みづらいかもしれません。そのため、この記事では英語版のパラレル・ニュースの記事よりも詳しく、私が研究を通して発見したことを紹介したいと思います。

今回の研究では、英国版25冊、日本版25冊の『ビッグイシュー』を読み比べ、ホームレスの描き方、政治との関わり、広告、読者参加、表紙、誌面構成などを比較しました。同じ「ホームレスの人々が販売する雑誌」でありながら、実際には驚くほど異なる雑誌へと発展していたことが分かりました。

最も大きな違いは、ホームレスをどのように描いているかです。英国版では、ホームレスは政治や社会制度の問題として扱われることが非常に多く、住宅政策、福祉、格差、選挙権、政府の責任などを頻繁に取り上げています。誌面では「なぜホームレスが生まれるのか」、「政府は何をすべきか」といった視点から議論が展開され、読者にも社会全体の問題として考えることを促しています。

その一方、日本版では、制度よりも販売者一人ひとりに焦点を当てています。販売者へのロングインタビューでは、アルコール依存症から立ち直った人、ギャンブル依存を克服した人、自殺を考えた過去を語る人、自分の夢や趣味について話す人など、本当にさまざまな人生が紹介されていました。「ホームレス」という肩書きではなく、一人の人間として伝えようとしている姿勢が、とても印象的でした。

今回の研究で特に驚いたのは、政治との関わり方です。英国版では、トニー・ブレア、デービッド・キャメロン、キア・スターマー、リシ・スナクなど、歴代首相や政治家へのインタビューが数多く掲載されています。ホームレス問題について政治家に直接質問し、ときには厳しく批判する記事も少なくありません。また、創設者ジョン・バード自身もコラムを書き、政治について積極的に発言しています。英国では『ビッグイシュー』そのものが、政治や社会問題を議論する場として認識されていることがよく分かりました。

日本版では、日本の政治家へのインタビューはほとんど見つかりませんでした。政治の記事が全くないわけではありませんが、多くは海外ニュースや国際問題を短く紹介する形式で、日本国内の政治を大きく扱うことは非常に少ないという印象でした。

価格の変化を調べてみると、両国とも創刊当時より大きく値上がりしていました。また、驚いたのは、為替レートによっては、日本版のほうが英国版より高かった時期もあったことです。現在は円安の影響で日本版 (500円) は英国版 (5ポンド) よりかなり安く見えますが、2020年頃には500円より安い450円だったにもかかわらず、ポンド換算ではイギリス版の3ポンドを上回る時期もありました。単純に価格だけでなく、為替の変化によって両誌の「高い・安い」という印象も大きく変わってきたことが分かりました。

私が一番面白いと思ったのは、日本版の「ホームレス人生相談」です。読者が恋愛、仕事、家族、人間関係などの悩みを送り、それに長年販売員として活動してきたホームレスの方々が答えます。ここで印象的なのは、販売者が「助けられる側」ではなく、「助ける側」として描かれていることです。ホームレスの経験があるからこそ語れる人生経験や考え方があり、それを読者が真剣に受け止めています。この企画は、「ホームレスの人は支援される存在」という固定観念を覆す、日本版らしい取り組みだと感じました。

日本版は読者との距離もとても近い雑誌です。読者投稿コーナーでは、「販売員さんと仲良くなった」、「毎月買うようになった」、「販売員との会話がきっかけで社会の見方が変わった」といった体験談が数多く掲載されています。さらに、DV支援団体や聴覚障害者、NPO、海外で活動する日本人など、多様な人々を紹介する特集も多く、「社会のいろいろな人を知る雑誌」という印象を受けました。一方、英国版にも地域活動や社会問題を取り上げる記事はありますが、読者同士や販売者とのつながりを育てるというよりも、政治や社会問題を読者に問いかけ、議論を促す役割がより強いように感じました。

表紙を分類して数を数えてみると、両国の違いが数字としても表れました。英国版では、ホームレスや政治、社会問題を表紙にする号が目立ちます。一方、日本版では俳優、ミュージシャン、作家、イラストレーション、芸術作品など、文化的なテーマが圧倒的に多く見られました。さらに研究では、私が所有する25冊ずつだけでなく、2026年時点の最新50号も追加で分析しました。その結果でも同じ傾向が確認され、日本版ではホームレスを表紙にした号は一冊も見つかりませんでした。一方、イギリス版ではホームレスや政治を前面に出した表紙が現在でも続いています。

つまり、日本版はまず文化や著名人で読者を引きつけ、その中で社会問題を伝えるスタイルであり、英国版は社会問題そのものを表紙から読者に訴えかけるスタイルだと言えます。

広告にも違いがありました。英国版には、ホームレス支援、DV被害者支援、精神保健、難民支援など、社会問題に関する広告が何ページにもわたって掲載されています。広告そのものが社会運動の一部のような役割を果たしていました。一方、日本版の広告はほとんどが最後のページにまとめられており、企業広告が中心です。もちろん法律相談や健康に関する公益広告もありますが、イギリス版ほど強いメッセージ性はありませんでした。

今回の研究を通して最も興味深かったのは、同じ理念から始まった雑誌でも、それぞれの社会に合わせてここまで異なる形へ発展するということでした。英国版は、ホームレス問題を社会全体の課題として政治や制度に問いかける雑誌になっています。一方、日本版は販売者一人ひとりの人生や読者とのつながりを大切にし、人と人との関係を通してホームレス問題を伝える雑誌へと発展しました。

どちらが優れているということではありません。同じ目的を持ちながらも、それぞれの国の文化や社会に合わせて異なる編集方針を築いてきたことこそが、この研究で最も印象に残った発見でした。

この内容は、私が執筆した英語論文『A Comparative Analysis of the UK and Japanese Editions of The Big Issue』をもとにまとめたものです。論文では今回紹介した内容に加え、価格の変遷、表紙の統計分析、広告、政治報道、販売者インタビュー、読者投稿、誌面構成などについて、より多くの事例とデータを用いて詳しく分析しています。興味のある方は、ぜひ論文全文もご覧ください。

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